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リコリスと日々

日記用ブログです。ネタバレなどは発売日から解禁中。

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◆絵チャ作品

絵チャの流れで書いたもの。
診断メーカーの「801CPお題(悲恋編)」で診断してもらった三つのうち一つを使っています。

悲恋編といいつつ悲恋じゃない感しかないです。
ザク桔で謎パラレル。設定とかは作中で語られている以上は何も決まってないです。
校正前なので色々誤字脱字誤変換や変な文章あるかもしれません。
校正後正式UPします。

首都から遥か二百キロ離れたこの町は、よく言えば静か、悪く言えば人のいない典型的な田舎だった。私としてはこの穏やかさが好きで、だから朝七時のほぼ無人のプラットホームも愛おしく見えた。
私を乗せた汽車は、今は朝日の中で発車の時を待っている。コンパートメントの窓に切り取られた駅舎のある景色を眺め、残していくもののことを考えた。
今日私は町を出る。二百キロ向こうの大都会へ行くために、生まれ故郷を置いていく。
そこには家族もいる。友人もいるし、思い出の場所もある。愛した図書館も、美しいと思った教会も、幼い頃船を浮かべた湖も、何もかも残していく。
そう、かつて愛した人すらも。
そこまで考えると、体の内側がちくりと痛んだ。何処とも言えないその場所には、多分心があるのだろう。
彼には遠くへ行くからと別れを告げた。互いの未来のために、今ここで手を離すことを私たちは選んだ。
私はいつここに戻るだろう。もしかしたら戻らないかもしれない。
彼はここでどうやって生きるだろう。もしかしたら遠くへ行くかもしれない。
誰も知らない未来の姿。けれど一つだけわかっていた。きっと私たちの道は、もう交わらない。
ならばここで別れを告げて、自由になろう。
明日の自由のために私たちは泣きながら今日の恋を手放した。
その悲しみも、後悔も、まとめてこの町に置いていこうと思ったのに。思い出してしまったことに後悔し、私は再度感情を心の底にしまいこむことに決めた。
懐中時計がカチリとなる。もうすぐ定刻だ。

「桔梗!」

がらんどうのプラットホームに、聞き馴染んだ声が響く。ばたばたと駆けこんでくる足音が彼らしくて自然と笑みが零れていた。
四角い景色に赤い色が飛び込んでくる。久しぶりに顔を合わせた相手になんと言うべきか、窓を開ける直前まで悩んでいたのに、朝の空気に触れると勝手に言葉が溢れていた。

「来てくれたのですね、ザクロ」
「バーロー、当たり前だろ」

いつものように言葉を交わして、いつものように笑いあう。
悲しいはずなのにまるで悲しみなどないかのように。

(そうだ、これはとても素敵な恋だった)

例え幕を下ろさなければいけないとしても。
私たちは幸せだった。
報われなかったとしても、それだけを抱えて生きていこう。
透明な青空に汽笛が響く。時間だ。

「さようなら」

別れの言葉を一つ口にし、私は窓から身を乗り出す。
ホームから高さがあるため難しかったが、何とか鼻先に触れるだけのキスを落とした。
唇が温度を捉えた瞬間、汽車が動き出す。緩やかに東へ動き、速度はぐんぐん上がっていく。
さようなら、ともう一度別れを告げる。
まだ長い旅なのに、そこから一かけらの郷愁を拭うことはできなかった。

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