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リコリスと日々

日記用ブログです。ネタバレなどは発売日から解禁中。

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薄桜鬼詰め合わせ1(2)

詰め合わせシリーズ二本目。

※風間×千鶴
 むしろ風間→千鶴かもしれない。

※楽曲「ワールズエンドダンスホール」から着想
※でもイメージだけなので原型らしいものはないです
※楽曲パロディ、楽曲イメージの二次創作が許せない方はバック推奨

※とても都合のいい話。
※友情出演:沖田、斎藤

原曲者様ごめんなさい。
当然ですが原曲者様、並びに関係者の方々とは一切関係ありません。
ただのイメージ。

よろしければどうぞ。

風の音が煩かった。
髪も、着物の袖も、ばさばさと靡く。

「見ろ、京の都だ」

夜になり、明かりの灯った街は、静かだが酷く美しい。千年もの歴史を有する都は、時代の何が変わろうとも、高貴な美しさを変えることはなかった。

「鬼の住む地にも、似た景色がある。けれどそこは、人の世とは違い平和なものだ」

返事はない。

立ち尽くした断崖の淵。
そこから京を見下ろして、彼女は何を思うのか。

「もう一度言う。俺たちと共に来い」

ゆるゆると彼女は首を振った。

「行けません」

見上げてきた瞳に迷いはなかった。

「私は、あなたとは行けない」

反射的にその腕を掴んだ。
意外とこの女の意志は強い。決めたことを曲げはしない。
逃げ場のない、断崖絶壁のこの場所でなら諦めて従うかと思ったのに。

ならば力強くで連れていくしかないではないか。

(……わからないな)

連れていきたいのは、悲願のためか。
それとも俺個人の執着のためか。

「っ離して!」

思考した一瞬の隙をついて、彼女が腕を振り払う。
全力だったのか、思いの外強い力に足元が揺らいだ。
一歩足を動かす。すると、足場が抜け落ちた。

「!」
「風間さん!」

横転する視界。
崖の淵に近いその場所が脆くなっていたのかと気付いた時、足元に大地はなく、俺は宙吊りになっていた。

本来なら真下に落ちていった筈だ。
しかしそうならなかったのは、崖の上から彼女が俺の腕を捕まえてくれたからだった。

「待っててください、今助けますからっ……」
「……何故だ」
「何故って……だって、このままじゃあなたが死んじゃうじゃないですか」

幾ら鬼の一族とは言え、この高さから落ちて無事でいられる保証はない。
もしかしたら下を流れる川に落ちるかもしれない。

だが、だからといって、今まで敵対していた俺を助けるものなのか。

「……私も、よくわからないですけど……でも、今のあなたは、そこまで悪い人には思えない」

命を狙ってもいない。
殺されそうにもなっていない。
だから死んでいいとは思えない。

彼女はそう言った。

けれど、彼女の細腕ではいつまでも俺の体重を支えきれはしない。
彼女が鬼であるとしても、圧倒的に力不足だ。
さらにはその足場は脆い。
いつ彼女が落ちてもおかしくないのだ。

「……愚かだな」
「なっ……」
「俺など、さっさと見捨てれば良い」

そんなこと、と泣きそうな顔で彼女が言う。
それを見てやっとわかった。

血筋や悲願のためではない。
俺が、この少女を求めていたのだと。

(だから、こんなところで死なせるものか)

お前は幸せにならなければいけない。
ここから生きて帰って、大事な奴のもとに戻らなければいけない。

お前は誰に会いたいのだろう。
俺にはわからないが、行けないと言ったあの瞳には、確かに俺以外の存在が映っていた。

幾ら思っても、届かない。
わかっているから、最後に一つだけ、お前のために何かさせて欲しい。

「……またいつか、雪村千鶴」

掴んでいた手を離す。
悲鳴のような声で名が呼ばれる。
するりと抜け落ちる掌の感触。
一瞬の浮遊感。

しかし別の手が、落ちかけた俺を再び捕まえた。

「斎藤君、ちゃんと掴んでてよね」
「お前こそしっかり捕まえていろ」

二つの、聞き覚えのある声。
見上げた先には知った顔があった。

「沖田さんに斎藤さん……?!どうして……」
「説明はあとだ」
「千鶴ちゃんも手を貸して。せーので引っ張り上げるからね」

せーの、と妙に場違いな声と共に身体が上に引き上げられる。
気付けば再び土の上に足がついていた。
白い着物に付いた土を払う。それを横に立った彼女が眺めていた。

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ああ」

それよりも、と、俺は突然現れた二人組を見る。

「別にお礼はいらないよ? 僕は、うちの千鶴ちゃんが困ってるみたいだから助けただけだし」
「そもそも、敵対するお前を助けて俺たちが得することはない」

今しがた助けたばかりの相手に向けるものにしては冷淡な瞳を向けて、沖田とやらは軽薄に笑った。
立ち並ぶ男――こちらは斎藤と言ったか――も、言外に彼に同意だと告げていた。

「総司、もう戻るぞ。俺たちの仕事は果たした」
「だね。ちゃんと千鶴ちゃんは保護できたんだし、これ以上いても意味ないよね」

そこで沖田は所在なさげに彷徨っていた彼女の手を掴んで、暗い森の方へ引いて行く。

「え、あの、沖田さん、」
「そこに突っ立っててもしょうがないでしょ? 帰るんだよ」
「そ、そうですね」

最後に鳶色の目と視線が合う。
唇が何を言ったものかと迷うように数回言葉を言いかけて止めたあと、ぺこりと一度頭を下げた。
そして彼女は道の向こうへ消えていく。
後を追った斎藤の黒衣が闇に溶けてしまうまでの一連の流れを、俺は引きとめもせず黙って見ていた。

誰もいなくなった断崖で、京の夜景を振り返る。
ただの光の海が、悲しいまでに綺麗に見えた。

 


(BGM:ワールズエンド・ダンスホール)
めっちゃ部分的すぎて何処がイメージなんだこれって感じです。
イメージに使ったのは、
「なんて綺麗な眺めなんでしょうか! ここから見える風景
きっと何一つ変わらないから 枯れた地面を這うの。」
ここだけです。

途中で、薫でも出来るかな……と思ったので、覚えてたらいつか薫バージョンでも書きたいところです。

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